ご意見・ご感想・ご質問・苦情・その他萬、tatuya215@hotmail.comにお願い申し上げます。
どうした?
「いや…呆れているんだ。つか、連載第一回目のタイトルがこれかい!?」
ふふん、斬新だろう。
ここは初学者でも愉快に楽しく著作権法を学ぶことを目的としているからな。これぐらい愉快なタイトルぐらいがちょうど良いんだよ。
『ネットアイドルちゆ12歳』という人気サイトがある。
まあ、今更説明するまでもないが、ヲタクな情報をより早くより正確にお茶の間のみなさまに届けるネタサイトとして有名だ。いままでもギャルゲー話やコミック『バンチ』などなど、様々な愉快なネタを我々に提供してくれてきた。
「ちなみにここ、一日のヒット件数だけで“presented by tatuya”二年分のヒット件数を遙に凌駕するんだよね…」
………ああ、この現実から目を背けたい(涙)。
このサイトの人気コンテンツのひとつに、『ガオレンジャー』レポートが存在する。なかなかこれが面白く、私も毎週更新されるのを心待ちにしている。
「ガオレンジャー。ああ、東映/テレビ朝日のお子さま番組だね」
もう少し格調高く(謎)戦隊ものと呼ぼう。戦隊もの見ないけどさ。
このレポート、ぶっちゃけた話、各話のストーリーダイジェストに適宜ちゆがつっこんでいるだけなのだが、かなり笑える。
「日記での紹介となれば、自然、そのスタイル以外選択肢が存在しないと思うがね…」
まあ、そうとも言う。
ガオレンジャー自体は、レポートを読む限り、“ネタとしてはともかく、”その出来は直視できないほど惨いものであると想像される。突っ込みどころが満載過ぎてどこでつっこんで良いやらほとほと困るか、開始二分で黙ってチャンネルを変えるか、さて、一体どんな反応をするだろうか? とまあ、そんな感じだろう(偏見に基づく断言)。
そんなゴミのような作品に毎週30分という貴重な時間を潰すことなく、ネタのエッセンスだけを回収できる『ちゆ』は忙しい現代人にとってなかなか貴重なサイトなわけだ。
「忙しい現代人は、そもそもガオレンジャーなんてチェックしません」
んん? 聞こえんなあ?
なにはともあれ、『ちゆ』のガオレンジャーレポートが私の娯楽の一つとなっているのは確かだよ。
で、ふと、考えた。
『ちゆ』のガオレンジャーレポートって、もしかして著作権侵害、すなわち翻案権侵害にならないのかなあと。
「まあ、テレ朝あたりが鼻息荒くして『ちゆ』を訴えればあり得る話ではあるけどね…」
あはははは、本当に法律構成するならば、まず真っ先にテレ朝ではなく東映との関係を考えるべきだろうけどね。テレ朝は、あくまで放送権を有するかあるいは、著作隣接権を有するかにとどまるから。第一次的に著作権を有する(著作権者)のは東映だよ………いやまあ、これも実は、テレビ番組を“映画著作物”と構成したときのみ可能な解釈なんだけどね。著作者はガオレンジャーの制作者たちだから(職務著作という理解の仕方もあるが…)。
「著作隣接権者に著作権者に著作者…むう、著作権の話って、ちょっとつっこんだだけで専門家も回答に困るようなディープな話題に発展してしまうんだなあ(苦笑)」
ま、そこら辺の話題はまた今度にして、今回は、『ちゆ』の翻案権侵害性だ。
さて、質問だ。翻案権侵害とはなんだい?
「翻案権侵害とは、27条によって著作権者に独占が保証されている翻案権を侵害する行為である。翻案権とは、著作物の改作のうち翻訳を除くすべての改作行為を意味する。典型事例は、小説の映画化や、漫画のアニメ化、漫画の小説化などだ。もちろん、改作である以上、原著作物と翻案された(とされる)著作物との間に類似性が認められなければ、それは翻案権の独占を侵害する行為とはされない」
はい、良くできました。著作権法学は、用語一つ一つの定義が全然しっかりしていないから調べるのが大変だね。
一つ付け加えるのならば、翻案権は、商品化権とはしっかり区別しておく必要がある。著作権法が保護するのはあくまで、著作物の“表現それ自体”であり、作品内のキャラクターや作品世界ではない。原則、オリジナルストーリーなどが翻案権侵害になることはないだろう(ただし、他の著作権を侵害している可能性はあるので気をつけること。また、最近は、キャラクターの著作物性を認めたとも読めるような判決もあるのでさらに注意が必要だ)。
さて、ここまで言えば、『ちゆ』レポートが翻案権の侵害をしている危険性があるということもある程度理解できるだろう。日記形式であろうがなんであろうが、ダイジェストとは、要は、「著作物を改作する行為」に該当する。本来、映像作品であり、かつ、30分の長さであったガオレンジャーを、ウェブにおいて、テキスト形式に変換し、かつ、長く読んで5分程度の長さに変えることは翻案行為そのものだろう(さらに実を言えば、23条の公衆送信権等侵害を構成する可能性がある…だから、著作権法はめんどくさい)。
「そうなると次は、著作権の制限の問題だね」
うむ。著作権法の難しさのひとつに、著作権侵害がそのまま損害賠償などどいった効果を構成しないことがあるということだ。法的に構成すれば、違法性を阻却する場合が幾つか存在する。
その、代表的なものに、30条の私的使用というものがある。
著作物の私的な使用である限り、著作権を侵害することはないという奴だ。
ちなみにこれ、結構重要だぞ。
仮にこの私的使用という条文が存在しなければ、私的なコピーやダビング、漫画のイラストを真似て練習する行為、カラオケで替え歌を歌うといった、日常で行われるありとあらゆる行為がすべて著作権侵害になる(爆死)。ここら辺についてつっこんだ記述が読みたければ、是非私の修士論文を読んでもらいたい。
しかし、『ちゆ』は、これでは駄目だ。ウェブで大衆に公表されるものはどう考えたところで“私的”使用とはいえない。
じゃあ、他に何が存在するかと言えば、実は何も制限されることはない。これがいま現在、公衆送信権等の最大の問題点として指摘されているところである。現行の著作権の制限は、この公衆送信権等を想定していないため、公衆送信権等は制限がほとんど存在しない権利となっている…この点についても、私の修士論文を読んでもらいたい。翻案権についても、ウェブ上で公開されている限り、同じ話になるだろう。
最後に考えられるのは、32条の引用だが………問題は、『ちゆ』が「公正な慣習に合致するものであり、」「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」と言えるかにかかっている。なお、ここでは、本文と引用文との主従関係も重要な判断基準になるとされている(例のマッドアマノ・パロディ判決による)。
「………まともに訴訟をやったら五年はかかりそうだね」
それに、お上はネタやパロディ、皮肉に厳しいからね。
「でもまあ、気にする必要はないんじゃない? まさか、テレ朝がそんなことするとは思えないよ」
それは、ここを見てから言ってみよう。『日本新聞協会』の見解だ。
『・引用して利用する場合には、いろいろな条件を守る必要があります
カギかっこを付け、出所を明示すれば引用になる、と安易に考えていませんか。引用の必然性があることや、質・量とも「主従の関係」でなければならないなどの条件を満たさないと、正しい引用とは言えません。
・要約紹介であっても、無断で行えば著作権を侵害することになります
原作品を読まなくても内容が分かるような要約は、著作権法上の「翻案」に当たり、著作権者の承諾が必要です。利用が認められるのは、作品自体の存在だけを紹介するごく短い要旨程度のものに限られます。』
「………まじっすか?」
うむ、奴らは大マジだ。第二第三の日本新聞協会が現れないとは限らないのだよ(謎…一応、フォロー。彼らが上記に則りユーザーを訴えたという事例は『まだ、』聞いたことはありません。警告を受けたとかいう話はちらほら聞きますが…ね(苦笑))。
「ちなみに、上記引用も、著作権侵害っすか?」
さあ?
「じゃあ、『ちゆ』レポートは?」
私はああいうネタは大好きだから、もっとやってもらいたい。ああいうネタがおおらかに許される社会にしたいというのが、私の願望だ。それが現行著作権法違反か否かなんて、関係ないよ。
ご意見・ご感想・ご質問・苦情・その他萬、tatuya215@hotmail.comにお願い申し上げます。