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一つは、PLたちに渡す因縁をどのように振り分けるかです。
クレアとの因縁を誰に渡すか。これこそが本シナリオでもっとも気を使うべき事の一つです。他のNPCとの因縁を持つPCに比べ、クレアとの因縁を持つPCは、他の“刻まれし者”たちと明らかに違うスタンスに立つことになります。簡単に言えば、他の“刻まれし者”とは対立関係に立ちやすいのです。クレアの女心を実感できる立場にいる分、ああいう意気地なしは嫌いだと、どうしてもアナスタシアには冷たく当たるのです。セッションとしては、右のように対立関係に立ってくれた方が、断然、面白くなることでしょう。
実際のセッションでも、シナリオの展開を読んでくれたクレアとの因縁を持つPCが、私と結託して、他の“刻まれし者”たちをいじめ抜いていました(笑)。いや、見事なサブマスターぶりです。是非とも、芸達者なPLに因縁を割り振ってください。そのPLのPCのアルカナがファンタスマかアングルスかであれば、更に文句がありません。他の“刻まれし者”たちが苦しむこと請け合いです。
一つは、本シナリオがファンタジーであるということです。
何度も言及したとおり、ファンタジーとは、理不尽な物語です。理不尽な契約内容も、理不尽なアナスタシアの殺意も、理不尽なリーンの子笛も、結局はそこにつきます。この事実をよくご理解ください。
最低でも、GMはセッション前に「人魚姫」の(邦訳の)原典に当たって欲しいです。ディズニーの「人魚姫」だけでは、正直、本シナリオの真意を誤解する恐れがあります。気をつけてください。
一つは、アナスタシアの意気地無い弱い心についてです。
シーン15でも書いたとおり、アナスタシアは最低の女です。ですが、同時に、健気な少女でもあります。アナスタシアがオクトレッドに恋した時点で、アナスタシアには選択肢などありませんでした。誘われるが如く、ヴィヴィアンに魔法をかけて貰い、破滅まで一直線でここまで来てしまったのです。最低の女ですが、同時に、責めようもないところもあります。その、悲しみを演出してください。これこそ、本シナリオにおいてもっとも理不尽なファンタジーです。
重ねて書きますが、安易な説得でアナスタシアに勇気を与えないでください。励ませれば勇気が出るなんて、それは強者の論理です。心弱き者は、励まされるほどその気持ちは沈みます。励ましは枷となり、四肢は硬直するものです。たとえそれが破滅への一直線であることを理解していても、人間誰しも現状維持をもっとも好むものです。
ここら辺は、臨床心理の本を読んでいただければ、何となくわかってもらえる…と思います。
最後に、ヴィヴィアンについてです。
ヴィヴィアンは悪人ではありません。
確かに、本シナリオにおいてヴィヴィアンは“殺戮者”です。“刻まれし者”たちにとって倒すべき絶対悪です。
しかし、ヴィヴィアンは、ただアナスタシアが望むものを与えたのみです。そして、その対価として正当な報酬を頂いただけです。しかも、ご大層に忠告までしています。なんらヴィヴィアンに否があるとは思えません。すべての元凶はアナスタシアにあるのです。
この点は、本シナリオを他のシステムにコンバートするときに、特に重要となります。
例えば、『ビーストバインド』にコンバートする場合です。
この場合、PCたちにとって最大の敵はヴィヴィアンではありません。アナスタシアです。アナスタシアは、人の気持ちに応えるという、もっとも基本的なコミニケーションを忘れ、自己愛に満足しています。これは、『ビーストバインド』で定義されているエゴに当たります。アナスタシアは確かに献身的な愛をオクトレッドに注ぎますが、その本当のところは、オクトレッドを愛しているという自分に酔うという自己愛、すなわち、エゴに凝り固まっているのです。PCたちは、このエゴに凝り固まったアナスタシアの心を解きほぐす必要があります。あるいは、罰を与える必要があるのです。
真の敵はアナスタシアであるということ、この点はしっかりと注意してください(なんでしたら、ラスボスに設定しても良いでしょう)。
なお、ヴィヴィアンは、民話学の分析に従えば、善悪を超越した「太母(グレートマザー)」あるいは、運命の三女神「モイライ」にあたります。ここは各自、民話学や神話学の文献に当たってみてください。
参考文献
人魚姫について
大畑末吉訳『完訳アンデルセン童話(1)』岩波文庫
フェアリーテールについて
トマス・カイトリー著、市場泰男訳『妖精の誕生−フェアリー神話学−』社会思想社教養文庫
キャサリン・ブリックズ著、井村君江訳『妖精Who's Who』ちくま文庫
中世騎士道物語について
ハインリヒ・プレティヒャ著、平野浩三訳『中世への旅 騎士と城』白水社
須田武郎『中世騎士物語』新紀元社
“契約”について
自分の専攻のため、特にこれを参考にしたというような本はありませんが、敢えて挙げるならば…
法制史について(正確には、比較法ですが)
大木雅夫『異文化の中の法律家』有信社
法解釈について
篠塚昭次『民法 よみかたとしくみ』有斐閣
アンデルセン童話に見られる自己愛について
森 省二『アンデルセン童話の深層』ちくま学芸文庫
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