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どうしても疑問が残るのは、発明自体が会社にどのくらいの利益をもたらしたかを決める算定基準が妥当かどうか、それを裁判所が判断できるのか、また判断すべきなのか、という点だ。言いたいことは概ねわかる。そのとおり事前契約で問題が片づけばそれに越したことがない。裁判所は、まったく異なる発明を1件ごとに様々な角度から詳細に検討して、判断を下していかざるを得ないと思うのだが、それには膨大な時間がかかることは容易に察しがつく。判決が出たときに、その発明が時代遅れで無価値になっていても、過去に遡って想定される利益を算定して会社に支払いを命じるのか。また、発明者も長期裁判では、自分の利益にならないのではないか。
つまり、この問題は裁判所が扱う問題ではなく、社員個人と会社が相談して決めるべきものなのだ。アメリカのように、個人と会社が成功の果実を分配する方法について、事前に契約を結んでおけばよいのである。現行の三五条のようなあいまいな条項は誰の利益にもならない。
そもそも、裁判に時間がかかると言うが、いったいいつの時代の裁判を想定しているのか? 昨今の裁判、一審に限れば長くても三年程度。最高裁まで行っても最大五年程度だ。平均的な事件であれば、一審一〜二年、二審最高裁で一年、計二〜三年程度。現に、本件事件が提訴されたのは二〇〇一年八月。しかも中間判決までは特許権の帰属の問題が論じられ、職務発明対価の問題は二〇〇二年九月以降に実質審理に入っており、本事件の審理期間はわずか一年半である(二〇〇四年一月三十日判決)。(なにを持って長いか短いかは判断が分かれるところであるが、)二・三年程度の審理を持って長いというのは、正直性急にすぎると思う。
そもそも職務発明対価の問題は、権利発生の問題や権利所在の問題ではなく、利益分配の問題として多少時間を掛けても良い。
たしかに権利発生の問題や権利所在の問題であれば問題解決が急務であるのは当然だろう。一方、利益分配の問題は権利関係の問題が解決した後、利益を適正に分配する問題であり、それはあとからゆっくりとできるし、しても問題ないことだ。少なくとも、権利関係の問題ほど迅速さが問題される問題ではなく、性急のあまり不確かな事実関係に基づいて不確かな判断がされる方がよほど問題となる。発明者に特許が認められないことが確定したのち、発明者にとっては最後の拠り所となることに注意すべきだ。発明者にとっては自分の権益を主張できる最後の場面であり、切実な問題であるということを想像してほしい。
もちろん、金銭の問題は早めに解決した方が良いという意見は当然あるだろうし、火急に金銭を必要とする場合も多々あろう。生活保障的な問題に発展する可能性もあろう。
だが、職務発明対価の問題は給与が保障された上で、その研究をいかほどに評価するか? という報奨的な問題であり、給与や生活保障ほど迅速さは要求されてはいないことが多い。
ならば、不確かな未来を根拠に、企業と発明者との事前交渉によって対価を決定するよりも事後的な方がより確実な評価をできることにならないだろうか? ……もちろん、企業の率直な意見としては、不確かな未来を根拠とすることで職務発明対価を圧縮したいという意図があるのであろうが(一般的に不確かな未来を根拠とした場合、対価算定は低額に抑えられる傾向にある)。しかしそのような不意打ち的・火事場泥棒的な発想は契約社会の病理であって評価すべき考え方ではない。
さらに、論者は「判決が出たときに、その発明が時代遅れで無価値になっていても、過去に遡って想定される利益を算定して会社に支払いを命じるのか」と言うが、職務発明対価の問題は先に論じたとおり、権利関係の問題ではなく、利益配分の問題である。「判決が出たときに、その発明が時代遅れで無価値になって」いても発明の過去の評価、発明が過去生み出した利益が減じたり無価値になったりすることはあり得ない。……もちろん、企業がつぶれていればそれまでだが(苦笑)。
発明者の権利と対価を受ける権利があることを法的に認めて、具体的な金銭面の条件などは、社員と会社との交渉と双方が合意した契約に任せるべきだろう。社員も自分の仕事から納得のいく形で対価を得て、会社もその発明の将来性、価値、投じる資金などを勘案して支払う対価を決め、両者が契約を結べばよい。社員と会社がそれぞれリスクをことでもある。よく解らないのはここである。
その上で、個人的に職務発明対価の問題に苦言を呈するのであれば以下の通りになる。
相当対価制であろうが事前交渉制であろうが、どちらでもかまわないし、むしろ理想を言えばそのどちらを選択するかは企業の裁量にゆだねるべき問題だ(そもそも、現行法でも事前交渉制は採用できることに注意)。別に、それ以外の解決方法があればそれでも良いだろう。好きにすればよい。
どの結論でもかまわないが、早急に特許法三十五条は改正されるべきである。そもそも、企業と従業員というきわめて労働関係的な問題がたった一条でしか規律していないという事実に驚くべきであろう。労働関係という二者間での力関係が著しい事例は、まさに詳細な規定が要求されてしかるべき事例である。
なぜ、職務発明対価といった重要な問題がいままでクローズアップされてこなかったか? それは、著作権法も同じだが、知財は歴史的に対外的な関係を規律することが使命とされてきた経緯があるためである。すなわち、海賊版対策が主要な問題とされ、企業と従業員という内部的な問題を問題として把握されてこなかったためである。ここら辺、著作権法や特許法が旧体然とした法律であるといわれるゆえんなのだが……(著作権法に限って言えば、その条文構造や法論理はフランス革命の頃から何も変わっていない)。
私が思うに、これこそが職務発明対価の真の論点である。
http://slashdot.jp/comments.pl?sid=102457&cid=343711
現状の問題点として指摘されている,現状の問題点について完結に良くまとまっている。我々はまさにそのことを検討しなければならないのだ。
・「相当の対価」が決定するのが,後日の補償金請求訴訟の判決確定までかかるのでは,時間がかかりすぎる。
・「相当の対価」の請求権に短期消滅時効がない結果,一般債権として10年の長期時効にかかる。
・裁判所が認定する「相当の対価」の算定根拠が不明確である。にも,一理あると思います。
潜在的な訴訟リスクを抱えた状態は,経営者は勿論,従業員・株主・投資家・取引先を含めた全ての企業の利害関係人にとって,好ましくないことでしょう。
追記:
新聞報道によると昨日三日に経済同友会の北城恪太郎代表幹事が青色LED訴訟について、「問題がある判決だ。異常だ」「多大な(企業の)負担が発生するなら、日本で研究開発をする意味がなくなる。ボーナスとして報いるとか昇給、ストックオプションなどで対応できる。成果が出たら多大なコストがかかるとなれば、現在の(研究開発の)状態は維持できず、空洞化をもたらしかねない。国際競争力を念頭に置くべきだ」と述べたらしい。
しかし正直、その物言いもどうなんだろうと思った。「国際競争力を念頭に置くべきだ」と言うが、そもそも、国際競争の土俵に立てなければ国際競争のしようもない。彼らが言うプロパテントを目指すのであれば、当然、優秀な技術者が海外に流出しないためにその手当をする必要があり、職務発明対価の高額化はその手当のひとつとなりうる。職務発明対価高額化は、プロパテントを目指し、国際競争力を高めるのであれば、“国家政策として”当然の方向性であろう。もちろん、個々の企業体がなにをもって国際競争力を高めるかは別個の話だ。ブランドイメージによっても良い、人事査定によっても良い、研究環境によっても良かろう。だが、裁判所、すなわち日本国自体が国際競争力を高める手当として何ができるかと言えば、それら企業体が取りうる様々な方向性を多様に認られるような手当をしておくことなのだ。ブランドイメージや人事査定であればそういう手当、研究環境であれば研究機材の購入を推進するような政策たとえば減税・免税規定など、そして、職務発明対価であれば客観的ルールづくりと対価高額化の判例法となるであろう。
日本人が、何も考えないままに日本企業で一生働くと考えているのであれば、それはただの考えたらず。いま問題にすべきは、国際競争力以前に、いかにして頭脳の海外流出を食い止めるかということではなかろうか。
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